ヒッチハイカー事件
「やれやれ、乗せてもらえて助かりました」青年はナップザックを背中から降ろして、
エアコンの効いたパトカーのハンドルを握っているモナハン保安官の隣の助手席に乗り込んだ。
「まさかパトカーをヒッチハイクしたからって、逮捕されたりしないですよね?」
「今日はな」保安官が答えた。「それほど暇じゃないんだ」
青年はほっとしたように笑みを浮かべた。そしてナップザックからチョコレート・バーを取り出すと
それをパキンとふたつに割って半分を保安官に差し出した。
「いや、結構」アクセルを踏み込みながら保安官が答えた。
「誰かを追跡でもしているのですか?」
「ついさっき、ファースト・ナショナル銀行が4人組の強盗に襲われてな。黒い大型セダンで逃走したんだ」
「えっ」ヒッチハイカーは驚いた。「ほんの10分ほど前に黒いセダンを見ましたよ。
それも4人の男が乗ってました。 もう少しで轢かれるところでしたよ。
1時間も待って、ようやく通りかかった車だったのに
でも、その車は左に曲がって西に向かいましたよ。北じゃなくて」
それを聞いたモナハン保安官は急ブレーキをかけて、車をUターンさせた。
青年はオレンジの皮を剥きはじめたが
皮はきちんと紙袋に入れていた。
「道路にかげろうが立ってるな」保安官が言った「今日は日陰でも摂氏30℃近くはあるだろう」
「そうでしょうね」ヒッチハイカーも頷いた。「あれ、曲がり角を通り過ぎましたよ。
どこに向かっているんです?」
「警察署さ」保安官がぶっきらぼうに答えた。ハレジアン博士はその顛末を聞いて
保安官の決断に心からの賛辞を送った。
Q1
どうして保安官はまっすぐ警察署に向かったのでしょう〜?
by ドナルド・J・ソボル
フランスのブドウ園事件 ヒーローになった犬事件
なくしたボタン事件 ホーム・ベイカリー事件
A1
警察署に着くとヒッチハイカーは、自分は強盗の一味で、追っ手をかく乱する為にあとに残った
ことをすぐに白状しました。
チョコレートを「パキンとふたつに割った」ことを考えると
彼はあきらかに嘘をついているからです。
摂氏30℃近くの暑さの中を1時間以上も立っていたのなら、チョコレート・バーは
やわらかく溶けているはずです。